2007.03.26更新
〜都市開発版SEGES 第2回セミナー報告〜
(財)都市緑化基金SEGES 事務局
SEGESセミナーは、第1回の広尾ガーデンヒルズにつづき、第2回として『欅ハウス』(2003年9月に世田谷区に完成)を見学しました。環境共生型コーポラティブ住宅として話題を呼んだ本物件は、敷地のほぼ中央に立つケヤキの大樹を保存し、緑の機能を活かした温熱環境改善などに効果的に活用するなど、計画地の潜在的価値を十分に尊重した事業と考えられます。
更にセミナーでは、都市開発版SEGES の試験運用をなるトライアルの実施に向け、参加者の皆様からご意見をいただきました。
● 日時 平成19年3月1日(木)13:30-16:15
● 会場 松陰コモンズ(世田谷区)
● 1.現地見学『欅ハウス』
● 2.『欅ハウス』企画思想について
株式会社チームネット代表取締役
甲斐 徹郎 氏
株式会社チームネット ホームページ
● 3.緑地評価の実施に向けた
意見交換・今後の事業展開について
講義と現地見学リポート

相続税のために敷地を切り売りせざるを得なくなったとき、永らく土地に息づいている樹木をなんとか生かしたい、その思いが目指したものは「環境共生型集合住宅を創る」こと、そして手段として選んだのが「コーポラティブ方式」だ。
緑をできるだけ残し、利用しながら快適な暮らしを手に入れたい、という同じ価値観を持つ人々が集まり、協力しながら集合住宅を作り上げるコーポラティブ方式がうまく機能して、環境を良好に保持しつつ開発された好例が『欅ハウス』である。
『欅ハウス』のコーディネイターである甲斐氏の講義では、この理想的な価値を手に入れるためにコミュニティを手段として利用する「コミュニティ・ベネフィット」の考え方や、コーポラティブ成功の秘訣をはじめ、環境を利用して快適に暮らす住居の「パッシブデザイン」を、体感実験などを交えながら解説し、「緑環境」が単に「付加」される価値ではなく、生活と緑環境に「つながり」があることを価値ととらえる「統合価値」を評価する試みについて、など多岐にわたってたいへん興味深く、今後の環境と人の共生の可能性に期待と希望を示していただいた。

◎体験:体感温度は違っても、鉄の牛と綿座布団の温度は同じ19度C。
都心の限られた面積の中であっても、緑の恩恵に浴した住宅は実現可能で、便利さと豊かさを同時に追求する「自立型共生」にその糸口があるようだ。では、自立型共生のひとつの具体例である『欅ハウス』を見てみよう。
![]() ◎↑南から中庭へのアプローチ。左が旧母屋、正面奥が地主宅、右側が『欅ハウス』。 |
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◎→窓の下はほとんどがプランターになっており、蔓植物を植えることで外壁に緑のカーテンをつくることもできる。 | ![]() |
700 坪の敷地のうち、売却された約230坪が『欅ハウス』の敷地だ。普通なら売却後は更地にされてしまうのが常であるが、樹木を残したいとの思いで集まった新しい所有者達は、樹木をできるだけ残し、伐採せざるを得なかったものは材木として住宅に利用し、地主宅との環境のつながりを残しつつ活かした住まいを計画、実現した。
樹木のうち最大のものが樹齢200年を超えるケヤキだ。敷地の端にあったが、一大プロジェクトとして移植がおこなわれた。地主敷地と合わせた全体のほぼ中心に移されたのだ。この移植工事によって、ケヤキはコミュニティベネフィットである中庭のシンボルツリーとなり、夏の涼しさをつくり出す機能も果たし、環境ポテンシャルを高めることに成功している。誰も経験したことのないこの移植工事は賭けであったが、見事にケヤキは移植を受け入れ再び根付き、過去と未来はつながった。これは『欅ハウス』の住民にとっての貴重な財産となっただけでなく、実例として他の計画に希望を与えるものでもあると言えよう。
東側の表通りから門を入り、屋内の共有スペースを通り抜けて中庭に出ると、空気が変わる。住民達のこだわりを反映したビオトープの効果のひとつだ。この中庭に面して各住戸の玄関が配されている。住まいを出入りするたびに庭とつながることができる。
各戸をつなぐ外廊下はゆったりとしたウッドデッキで、中庭を眺めることができる。廊下としての機能だけでなく、こどもの遊び場、住民の憩い、交流の場にもなっているのだ。
住居の外壁と廊下部分の間に少し空間を持たせて、外側は木の格子戸で覆われている。格子戸で横につながったデザインにより、各住戸の境目すら意識することのないスッキリ落ち着いた外観になっている。この格子戸には、見た目の良さだけでなく重要な役割があるのだ。
格子は閉まっているとも開いているとも言える。格子戸が閉じていれば外から各住戸の様子は分からない。しかし家の中からは廊下、中庭の様子がよく見える。人の出入り気配を感じることができ、こども達が遊んでいてもそれとなく目が届く。外は見えても外からは見えない安心感があるのだ。安心感を得るには外と断絶するのが手っ取り早いのだが、ここではそうではない。中庭のセミパブリックと、室内のプライベートの間に、格子戸がセミプライベートゾーンをつくり出しており、その開け閉めの組み合わせで、外と中のつながり方を段階的に選択できるようになっているのだ。
また、この格子戸は、外気との関係をコントロールするパッシブデザインを機能させるものでもある。窓を開け放っていても、格子戸を閉めていれば、視線や侵入を遮りながら、外気を取り入れることができる。
屋上に出ると庭園と農園があり、ここも住民憩いの場だ。屋上からは眼下の庭をまた違う角度から楽しめるようになっている。高さは違うが緑を通じてここも庭の一部となり、環境とのつながりを生み出している。 元の敷地は分割されて所有者は分かれたが、緑でのつながりを残すことで、互いが借景となり、元の敷地の一体感を残している。
「屋敷林は相続が発生すれば消滅するしかない」のではなく、すべてを残すことはできなくても「接ぎ木」をするがごとく、希望を残して未来につなげることはできるのだ。
見学の始めに甲斐氏から提示された着目のキーワード「つながり」が、随所にみられた『欅ハウス』だった。

![]() | ◎松陰コモンズは、地主の鈴木氏が生まれ育った、築150年の旧母屋。 また、地主敷地の旧母屋はNPOに貸し出され、シェアードハウス「松陰コモンズ」として利用されており、大広間は地域に開放されている(今回のセミナーの会場) |




